1999年トルコ・コジャエリ地震被害調査速報  磯山龍二


4.ギョルジュク水没

4.1ギョルジュクまで

 9月8日(水)調査団の一チームはイスタンブールからフェリーでヤロバにわたった。ヤロバから西に行って海に町が沈んでいるギョルジュクを見よう との計画である(案内図参照)。我々調査団は、トルコ地震工学界の重鎮であるヤラール先生(92歳)の紹介状をもらっていた。驚いたのはこの紹介状をフェ リーの改札に見せて交渉したところ(調査団の東海大学オメール氏が交渉役)、なんとただで乗せてくれた。たいした威力である。

 約1時間でヤロバに到着。町の被害は相当であるが、アドパザールほどではない。変電所や郊外の大被害を受けた団地等を見る。この団地はあまりの手 抜きにより建築業者が逮捕されたという場所である(この逮捕はみせしめ的な意味が大きいか)。ヤロバの海岸近くのやや高級な住宅地にも行ってみたがそれほ どの被害はなし。

 途中で昼食を取りつつ一路西へ。海岸の沈下が始まる町に着く。ごく大雑把な地図しかなく、なんと言う町かはわからない。ギョルジュクのだいぶ手前 で、KaramurselないしはUlasliかどちらかであると思う。やや高いところを走る主要道路から海側がかなりのにぎわいの町で、坂をくだってす ぐに海岸につく。海岸の護岸周辺が沈下し一部海に落ちているところもある(写真-4.1.1、4.1.2参照)。海岸は公園になっているが、亀裂もそれほ どではなく、噴砂のあとも見られない。このあたりではまだ全員まったく土木的な見方しかできない。いわく、やや深いところで液状化がおこり、海岸がすべっ た、すぐ近くの海底で地滑りが発生、それに引きずられた等である。

写真-4.1.1  KaramurselないしはUlasliの海岸水没

写真-4.1.2 KaramurselないしはUlasliの海岸水没。護岸の地割れ


 この町からまた西に進んでほぼデレメンデーレ(Degirmendere)の町に近い所(Yuzbasilar)にガソリンスタンドがある。スタ ンドにレストランが併設され、トレーラーが沢山止まっている。この場所は海からやや高く(5m程度か)、岬のようになっている。ここがばっさりという感じ で海に落ちている(写真-3.3.3、3.3.4)。もとの海岸線から数m程度、完全に、あるいは部分的(段階的に)海に消えている。ガソリンスタンドの 地下タンクが海に落ちている。レストランは半分海に引きずられるかたちで壊れている。ここでも土木的な見方が支配的であったが、さすがに断層に関連するも のではないかという見方も出てきた。しかし、地震を起こした断層はこのあたりでは海を走っているはずで、しかもその断層は横ずれのはずである。横ずれ断層 の雁行など主断層の動きから副次的にでてきた断層ではないかとの見方である。

 さらに西に行きデレメンデーレの町に入り、海際が公園になったような所で止まる。海に向かうの道がばっさりと途切れ、横には半分水没しつつ崩壊し ているビルがあるこの道の右側のすぐ前になんと5階建てのホテルが沈んでいるという。そのまま沈んでいるのか、傾斜しているのか、あるいは完全に崩壊して 沈んでいるのかわからない。しかし、そこにいたおじんさんが、在りし日のホテルの写真(新聞の切り抜き)を見せてくれた。確かにホテルがあったらしい。こ の話から少なくともこの時に海岸から相当程度先まで海に沈んでいるものと考えてもよいようである。写真-3.3.5に地盤工学会がヘリから撮影したこの地 点の写真を示す。地盤工学会の報告(1999年トルコ・コジャエリ地震第一次調査団速報、平成11年9月17日)によると、ここは海水浴場で奥行き約 75m、幅250〜300m程度の大きさの地盤が水没したとのことである。ここで海を見つめている人たちの表情はうつろであった。血縁あるいは知人がまだ 見つかっていないのであろうか。

写真-4.1.3 Yuzbasilar、ガソリンスタンドの脇の海岸沈降。東から西を望む

写真-4.1.4 Yuzbasilar、ガソリンスタンドの脇の海岸沈降。西から東を望む

写真-4.1.5 デレメンデーレ、ホテルが水没した地点。全体に海岸が落ち込んでいる。(地盤工学会調査団撮影)


4.2ギョルジュク水没

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