イズミット湾の沿岸、特にイズミット周辺には工業地帯で、自動車、石油精製等の多くの工場が立地している。また、アドパザール近郊の高速道路に 沿った地域も工業団地的に開発されており、自動車等の工場が多くある。土木学会調査団(99年9月5日から11日まで)では、産業施設についても対象に含 め、東京都立大学の鈴木浩平教授(機械学会を代表して参加)を中心に被害調査を行った。著者も2日間、鈴木教授のチームに加わり、イズミットの石油精製施 設、トヨタSAの工場を調査した。本文はその調査の概要をまとめたものである。図-1.1には本節で対象とする工場の案内図を示す。なお、本節をまとめる にあたり、鈴木教授の報告書(鈴木浩平、1999年トルコ・コジャエリ地震被害調査報告書、産業施設等の被害、1999年10月15日)およびトヨタSA に同行した科学技術庁防災科学技術研究所、志波由紀夫氏のメモを大幅に参考にしていることをお断りしておく。
イズミットの海に面してトルコ石油精製会社(TUPRAS, Turkish Petroleum Refineries Co.)のイズミット製油所がある。この会社はトルコの全製油量の約86%(年間約2700万立法m)を生産する国営企業である。イズミット製油所は4ヶ 所ある製油所の一つで、全製油量の約1/3の生産量を持っている。重油タンク14基、製油等のタンクが86基あった。
地震発生直後、浮き屋根式の円筒タンクが炎上した。出火はどのタンクか不明であるが、6基のタンクが炎上した(写真-6.1、6.2)。4基は直 径20〜25m、2基は直径10mのタンクであった。製油所の話では、着火の原因は浮き屋根とタンクが接触し、火花がちったものと考えており、スロッシン グが原因との見方のようであった。46基の浮き屋根式タンクの内の30基が屋根に損傷を受けているとのことである。この他、固定式屋根のタンクが1基、屋 根部で損傷していた(写真-6.2の後方のグレーのタンク)。ただし、この変形は、隣のタンク炎上の影響で熱変形を受けたものかもしれない。タンクは3日 間にわたって炎上した。
タンクは米国カリフォルニア州の指針により設計されている(炎上したものも含めほとんどのタンクが1960年頃に建設された)。地盤は海に近いご く一部を除き、かなり良好なようであった。液状化の形跡もなかった。ただし、護岸は一部で崩壊あるいは若干の移動を起こしており、桟橋上の鋼管の破断、 ラックの鋼材の破断等の被害があった。
タンク以外の被害としては、重油燃焼炉の煙突(高さ約100m)が倒壊、燃焼炉に火災が発生した。
写真-6.1 イズミット石油精製所(Bogazici University HPよりhttp://www.kandilli.koc.net/earthquake.htm)
写真-6.2 炎上したタンク