穴水町

穴水町中心部では、図1に示すように、K-NET穴水観測点(ISK005)で強震波形が得られている。ボーリング柱状図を図2に示す通り、厚く有機質土が堆積する極めて軟らかい地盤である。


図1 穴水町中心部の強震観測点位置



図2 K-NET穴水のボーリング柱状図(防災科研K-NETウェブサイトより引用)


K-NET穴水における強震記録の速度波形(0.1〜10Hz)と疑似速度応答スペクトル(減衰5%)を図3に、水平動粒子軌跡を図4に示す。水平動粒子軌跡は、速度波形で最大値をとる前後各3秒について示している。

K-NET穴水で得られた強震記録は、計測震度6.3、最大速度103kine、SI値127kineと、今回の地震で波形データが得られている中では最強の揺れを観測している。この大きさは、1995年兵庫県南部地震や2004年新潟県中越地震での観測記録と比べても遜色がない。水平動粒子軌跡は、東西方向に卓越していたことを示している。周期1秒が卓越しており、疑似速度応答値は300kineを越えている。


図3 穴水町中心部での速度波形(0.1-10Hz)[上]と疑似速度応答スペクトル(減衰5%)[下]



図4 穴水町中心部での水平動粒子軌跡


K-NET穴水が非常に軟弱な地盤に設置されていることは前述した通りである。観測点付近には、山王川、小又川が流れているが、現在の合流地点から河口までの流路は、1964年からの河川改修によるものであり、それまでは、K-NET穴水観測点のすぐ横を流れる水路が本流であったことが旧版地図によって確認できる。図5に、K-NET穴水付近の明治43年の地形図1)と現在の地形図を示す。


図5 穴水町中心部の地形の変遷(明治43年測量旧版地図および現在の地形図を引用)


図6には、本震および6つの余震のH/Vスペクトル比を示す。多くの地震で卓越周波数は約1.1Hzであり、本震といくつかの余震で0.9Hz付近に低下している。また、本震では高振動数成分での比が他より小さくなっている。これらは、地盤の非線形化が生じたことを示している。翠川・三浦らは常時微動のH/Vスペクトル比と地震動のH/Vスペクトル比を比較しているが2)、本震前の地震動は常時微動と同じ0.8秒前後が卓越しており、本震では地盤の非線形化の影響で1.0秒と卓越周期が長くなり、本震以降は再び0.8秒前後に戻っていると指摘している。


図6 K-NET穴水での地震動のH/Vスペクトル比


K-NET穴水での表層地盤の伝達関数を評価するために、粗いものではあるが、図2に示したボーリングデータに基づき、地盤モデルを設定した。深さ17m付近で岩盤が現れているものの、S波速度は290m/sにとどまっていたので、ここでは深さ20mに500m/sの工学的基盤層を設定し、この層へのはぎとり解析を行い、伝達関数を評価した。これを図7に示す。EW成分の場合、最大せん断ひずみは1%を超えている。


図7 K-NET穴水での伝達関数


なお、穴水町には、K-NET穴水の東方向約6kmの地点の山中にKiK-net穴水観測点(ISKH05)が設置されている。能登半島地震は欠測であるが、翠川・三浦による常時微動観測2)や西川らによる経験的サイト増幅特性の評価3)から、0.1〜0.15秒程度が卓越している地点であることが分かる。現地調査の結果、KiK-net穴水が敷地内にある旧岩車小学校の校舎には被害は見られなかった(写真はこちら)。地震動の空間補間推定からも、K-NET穴水での強い揺れは局所的なものであったと言えるであろう。



参考文献
1)大日本帝國陸地測量部: 5万分の1地形図 穴水(明治43年測量大正元年製版)、旧版地図、国土地理院
2)翠川三郎、三浦弘之(2007): 2007 年能登半島地震における強震動と強震観測点での常時微動特性(速報)
3)西川隼人、北浦勝、宮島昌克: 2000年石川県西方沖地震の強震動特性に関する考察、土木学会論文集、No.731/I-63、pp.257-266


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