大規模斜面の山腹工点検にUAVを活用
2021.2.19
姫川土砂災害の対策工の点検調査
1995年7月、梅雨前線の停滞により上越地方を中心に総雨量300mmを越える集中豪雨が発生しました(7.11水害)。長野県北部から新潟県南西部を流れる姫川では河川が氾濫し、支流や付近の山腹斜面の大規模な崩壊、土石流や地すべりが多数発生し、姫川温泉や国道148号、JR大糸線などに甚大な被害をもたらしました。特に糸魚川市葛葉山地区で発生した土砂流出では、下流の河床を最大約10m上昇させる規模となり、下流のインフラ被害の大きな要因となりました。
その後、土砂災害の再発防止を目的として河岸の保護や山腹工等が整備されており、葛葉山地区上流では2004年度から広範囲に斜面安定化工が実施されました。
本業務を開始した2020年度の時点で、葛葉山地区の山腹工のうち施工年度の最も古いものでは、既に完成から17年が経過していました。将来的にも安定した斜面を保つためには、定期的に点検を行い、必要に応じてメンテナンスを行う必要がありますが、山腹工は急斜面であり規模も大きく、計画的に効率的かつ安全な点検・維持管理を行う方法が課題となっていました。
維持管理のポイントは斜面変状の早期発見
EJECでは葛葉山地区の山腹対策工の維持管理について、現況の状況把握、維持管理基準、点検方法および維持管理が必要になった場合の対応方法について検討しました。また検討結果を反映させた維持管理マニュアル(案)も作成しています。
葛葉地区では広範囲かつ急斜面に多くの対策工が施工されているため、施設の老朽化と併せて斜面変状の有無を早期発見することに着目して、点検計画と点検内容、点検頻度を検討しました。同時に、UAV空撮、レーザー測量、干渉SAR画像等の非接触データを活用した概査の有効性について検証し、UAVによる点検仕様を維持管理マニュアルに取り入れました。
3次元計測の活用
近年、国土交通省において生産性向上を目的としたi-constructionにおいて、道路や橋梁等の施設点検・管理にUAV(ドローン)などを用いた3次元測量等の利用が推進されています。しかし、現状では防災や維持管理面での活用はまだ少なく、施設点検でのさらなる活用が期待されています。
そこで、葛葉地区での調査・計測検討業務では、通常目視で行う作業をUAVによる画像撮影や地上レーザー計測機を用いた観測を行い、3次元計測を活用した管理方法を提案しました。
具体的には、以下の調査・計測を行っています。
- UAVを使用した高画質写真による斜面撮影から画像合成調査(立面オルソ画像を作成)
- UAV搭載の赤外線カメラを使用した調査(局所的な斜面異常の把握)
- 地上レーザー計測機を使用したオーバーハング形状の計測(地盤のえぐれ箇所の崩落状況を定量評価)
さらに、今後も有効な点検手法として活用できるよう、精度の確認や手順・留意事項などについて検討しました。
インフラの維持管理に貢献
インフラの老朽化は日本の深刻な社会課題であり、ドローンを用いた損傷画像の撮影対策などデジタル技術を活用した新たな安全確保の手法が期待されています。そのため、既設の砂防関係施設について統一的にかつ効果的に点検を実施し、客観的な基準で健全度を評価することが重要であり、EJECでは引き続き効果的な点検手法の開発に貢献していきます。
業務名 | 令和2年度 大規模斜面対策施設維持管理検討業務 |
業務内容 | 大規模斜面対策施設維持管理検討1式 |
期間 | 2020年10月16日~2021年2月19日 |
事業主体 | 国土交通省 北陸地方整備局 松本砂防事務所 |
レーザー:国土交通省(国土地理院を含む)やJIS(日本工業規格)ではレーザと称する
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