新潟県中越沖地震本震で最も強い揺れを観測した防災科研K-NET柏崎強震観測点(NIG018,以下K-NET柏崎と記す)での強震記録について示す。
・観測点の位置
図1に示す通り、K-NET柏崎は、柏崎市役所に隣接する柏崎市市民会館敷地の隅に設置されている。同じ敷地内の50m程度離れたところには、新潟県の震度計(柏崎市中央町)が設置されており、現時点では波形は公開されていないものの、本震において計測震度6.3を観測している。図2は、K-NET柏崎でのボーリング柱状図である。観測点および周辺の写真はこちら。
図1 K-NET柏崎の位置
図2 K-NET柏崎のボーリング柱状図(防災科研K-NETより引用)
・本震の時刻歴波形
図3には、K-NET柏崎での本震記録の加速度時刻歴波形、速度時刻歴波形(0.1〜10Hz)を示す。比較のため、図4には、気象庁の出雲崎町米田震度観測点(CB5,以下JMA出雲崎と記す)での加速度時刻歴波形、速度時刻歴波形(0.1〜10Hz)を示す。JMA出雲崎に比べ、K-NET柏崎では長周期成分に富んでいる。また、継続時間を比較するとJMA出雲崎よりK-NET柏崎のほうが短くなっている。K-NET柏崎での加速度時刻歴波形は急激に減衰し、速度時刻歴波形には矩形のパルスが見られるが、液状化地点特有の特徴を示している。現地調査の結果、K-NET柏崎周辺で噴砂などの液状化の痕跡は見られなかったが、地盤が強い非線形応答を示したものと考えられる。
図3 K-NET柏崎での本震時刻歴波形
図4 JMA出雲崎での本震時刻歴波形
・水平動粒子軌跡
図5には、K-NET柏崎での本震記録の速度時刻歴(0.1〜10Hz)の水平動粒子軌跡を示す。水平動粒子軌跡は、速度時刻歴で最大値をとる前後各3秒について示している。北西-南東方向に卓越しているが、概ね北東-南西方向の断層走向と直交している断層すべりの方向と一致している。
図5 K-NET柏崎での本震速度時刻歴の水平動粒子軌跡
・近年の代表的な強震記録との比較
図6には、K-NET柏崎での本震記録の応答スペクトル(減衰5%)を示す。卓越周期は2.5秒と非常に長いものとなっている。過去の被害地震における代表的な強震記録と比較して示しているが、建物被害に影響を及ぼす1〜2秒の周期帯においては、1995兵庫県南部地震のJR鷹取駅や2004年新潟県中越地震の川口町ほどのパワーは持っていないことが分かる。
図6 K-NET柏崎の本震記録の応答スペクトルと過去の被害地震における代表的な強震記録の応答スペクトルとの比較
・非定常パワースペクトル
図7にはK-NET柏崎での本震記録の、神山の非定常パワースペクトル1)を示す。長周期成分の到達時間が早く、表面波が含まれていると考えられる。
図7 K-NET柏崎での本震記録の非定常パワースペクトル
・サイト特性
図8には、K-NET柏崎での強震記録のH/Vスペクトル比を示す。図は、2004年新潟県中越地震本震、2007年新潟県中越沖地震本震を境に色分けしている。新潟県中越沖地震本震では、地盤の非線形応答により0.3Hz程度まで低下しているが、多くの地震において、0.6〜0.7Hz付近が卓越していること、後藤ほか(2007)の初動調査時の常時微動観測による卓越周波数が0.8Hzとの報告より、K-NET柏崎は、1秒以上という長い固有周期を有する地盤にあり、新潟県中越沖地震本震では、地盤の非線形応答によりさらに長周期化したと考えられる。
図8 K-NET柏崎での強震記録のH/Vスペクトル比
謝辞
防災科研K-NET、気象庁震度計の強震記録を使用しました。記して謝意を表します。
参考文献
1)神山真: 強震地震動の非定常スペクトル特性とその波動論的考察,土木学会論文報告集,第284号,pp.35〜48,1979.